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シニアチックな水彩画家,80歳 おさむ斉藤のブログ Watercolor by Osamu 水彩画家のロス日記 Watercolorist Diary

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2008年 08月 12日

命_c0053177_153241.jpg


 散歩道の途中に巨大な街路樹がある。ペッパーツリーと呼ばれる
木だ。木肌が荒く不気味に曲がりくねった枝。でこぼこの瘤があち
こちにあり、童話の中の悪魔の森に暗い影を作る不気味な老木。そ
んな雰囲気だ。ドラマチックで絵に成る大木でもある。

 家に覆い被さる様に枝を張る。そんな枝の一部が歩道に張り出し、
木の葉のトンネルを作っていた。私は毎朝その下を潜るのが楽しみ
なのだ。おどろおどろした木肌とは対照的に、繊細な柳にも似た木
の葉が垂れ下がっている。丁度私の背丈くらいのトンネルだ。そこ
を通るとき木の葉が優しく私の頭や肩を撫でるのだ。

 先週の土曜日だった。私はその木の手前で足を止めた。木の葉の
トンネルがうんと低く成っていた。腰を屈めても通り抜けが難しい
程だ。私は執念でトンネルを潜った。振り返り大木を見る。枝が折
れてしまったのかと思ったのだ。しかしそんな様子はない。だとす
ると大木全体が傾いているのだ。それしかない。とにかく私は散歩
を続けた。

 散歩のない日曜日が過ぎ月曜の朝に成った。東の空が白々開ける
頃散歩に出た。最初は軽く上半身の柔軟体操。徐々に足を速めてパ
ワーウオークに入る。トンネルの有る通りに出た。何かがおかしい。
トンネルが無い。確かにこの辺りだ。私は足を止め辺りを見回した。
そこには巨大な切り株があった。切り口は真っ白で、近付くと鼻を
くすぐる懐かしい匂いがした。あの巨木が、何十年いや何百年生き
たであろう巨木が、ほんの一日で姿を消した。

(今日の作品:私のスケッチブックよりアゲハチョウ)

by shinia62 | 2008-08-12 01:08 | シニアの時間 | Trackback | Comments(6)
Commented by かず at 2008-08-12 10:02 x
せっかく永く活きてきたのにペッパーツリーかわいそうだねぇ、伐採の理由を聞きたいもんだ!人間ってエゴだからなぁー・・・・・このオニユリにとまる蝶もすっきりとして活きているようだねぇ
Commented by shinia62 at 2008-08-12 11:55
かずさん
大木は老齢になり家に倒れ掛かったので伐採したようです。長い命を終えたのでしょう。
Commented by shinn-lily at 2008-08-12 15:26
このゆり素敵です。
ちょっと水墨画のタッチですか?
勢いを感じます。
Commented by shinia62 at 2008-08-12 23:38
shinn-lilyさん
墨絵をやっていた頃描いた習作です。墨絵のテクニックは水彩画をやる上でとても役立ってます。
Commented by Katsumi at 2008-08-13 00:40 x
ずっと、あるように思っていたものが、いつのまにか無くなっていて、
もう、記憶の中にしかないというのは、なんだか切ないものですね。
もしかしたら、その木も、いつも、
さむさんが通るのを待っていたかもしれませんね。
Commented by shinia62 at 2008-08-13 01:21
Katsumiさん
毎朝その木の葉のトンネルを潜りながら大木全体に注意を払った事がありませんでした。全体をしげしげ眺めたのはその木を見た最後の日。相当な老木だったようです。巨大な切り株の中は空洞になってました。


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