2007年 07月 03日

キャニオンカントリーで

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そろそろ現場だ。指定された6時30分にまだ40分ある。
余裕だわいとほくそ笑んだ。
サザンオークスの山の中だ、我が家から可成りの距離がある。
1時間半はかかるだろう。其れプラス30分の余裕を加え、
2時間前に家を出た。外はまだ真っ暗な早朝4時半。

最後の道に車を入れる。
両側に牧場が沢山有り長閑な風景が続く。
暫く走って変だなと感じた。
道順説明では最後の道に入り2マイル程だと言う事だった。
間違いなくそれ以上走っているが現場を知らせる看板も無い。
心に焦りが出る。回りの美しい風景が目に入らなくなった。
落ち着け、こんな時はどうするか。
そう、緊急電話だ。其れを控えたメモが有る。

車を停めた。
公衆電話などない山道で携帯が初めて威力を発揮する。
電話に出た女性に事情を説明した。
すると彼女は
「あら、その住所を何処で知ったの?」
不思議そうに行った。
なんとぼくは違う住所へやって来たらしい。
何でこうなったのか。混乱する頭で考えても答えは無い。
とにかく正しい住所を彼女に訊くと手帳にメモした。
それは全く方向の違うところだった。

正しい住所はキャニオンカントリーと呼ばれる辺りだ。
現場はその奥に入った牧場である。
停滞がなければ1時間程で付くだろうか。
時間はそろそろ指定された6時30分になろうとしていた。
時間に送れることは間違いない。

ぼくは鬼の様な形相でドライブした。
どんどんスピードを上げて他の車を追い越しジグザグに走った。
ぼくが一番嫌うタイプの運転手に成った。
フリーウエイはそろそろ通勤ラッシュに入る。
停滞だけはしないでくれと祈った。
この仕事を逃したくない。

そろそろ最後のフリーウエイに入るころ携帯が鳴った。
車の中で携帯を使うのは初めてだ。
そんな運転手を呪っていたくらいだ。
しかしこの緊急時に悠長な事は言っていられない。
間違いなく仕事先からの電話なのだ。
「今どの辺りに居るの?大丈夫?」
質問が矢継ぎ早に続く。
ぼくは努めて明るく現在の位置を彼女に知らせた。
「あら、もう現場の近くね、それなら大丈夫だわ」
彼女の言葉にぼくは安心した。
住所を地図で見た訳ではないので
最後のフリーウエイには入ってから何マイル走るのか
見当もつかなかったのだ。
彼女の言葉から察するにそのフリーウエイには入ったら
間もなく降り口が有るのだと想像出来た。
電話を切るとレーンチェンジを何車線も一気に行う。

教えられた通りの看板はすぐ見えた。
フリーウエイから通りに出る右角に
現場を示す懐かしい黄色に黒の矢印看板が見えた。
もう現場に到着した気分になる。
しかし、この山道が延々と続いた。
行けども行けども次に右折する筈の通りが見えない。
遂に道は突き当たりになって不安に襲われた。
突き当たりの道の道標を見てホッとする。
それが右折する通りだった。

現場の駐車場へ着いた。
家を出てから3時間近く経っていた。
アドレナリンが身体に溢れていて疲れは感じない。
ぼくは大きく深呼吸すると、
やけに静かなベースキャンプへと入って行った。
予定時間を1時間過ぎていた。

移動する車の中でどうして住所を間違えたのか考えていた。
そしてその原因を知る。

Heroesのインタービューでちょい役を逃したのが金曜日。
翌週の月曜にエージェントから電話が来た。
明日のHeroesのロケーションに出られるかと言う。
勿論だ。予定は全部キャンセルしてでもやりたいくらいだ。
もっとも他の予約が有る様な忙しい自分ではない。
「それでは詳細は録音メッセージで聞いてください」
ポイントは此処だ。彼女は
「詳細は今夜7時以降に更新されます」
と付け加えたのだ。何度も言われていることだが、
有頂天に成っていたぼくはその事をすっかり忘れていた。
電話を切ると直ぐ録音情報のナンバーを回した。
つまりぼくは更新される以前の昨日の情報を聞いてしまったのだ。
誰の責任でもなく自分の不注意に振り回されたのだ。
自業自得と言うしか無い。

ベースキャンプで金曜日に世話になったSが
「やっと着きましたね」と笑った。
そして直ぐ衣装係のトレーラーへ。
今日の撮影について全く情報のないぼく。
どんな衣装なのか見当もつかない。

衣装係は手際良く着物や袴を着けてくれる。
それに襷をしてメークのトレーラーへ
そこでどろんこカラーのメイクアップを顔や腕に施す。
自分は一体何者かと思ったりするが、
とにかく準備は終った。
バンに乗り込み撮影現場へと移動した。

撮影は既に始まっていた。
遅れて来たので当然か。従って最初のシーンに出番は無い。
ロケ現場は牧場の一部らしい。
池が有りアヒルが沢山泳いでいる。
なかなか長閑な風景だ。
その池の淵に沿って、
このシリーズの主役の1人、Masi・Okaが走っていた。
其れをレールの上を走るカメラが追う。

そんな風景を眺めながら、
出番のないエキストラ仲間とスナックを摘む。
見たことの無い顔ばかりだ。
若い男が多い。
女性は1人だけ。

次のシーンから自分も撮影の輪に加わった。
大き過ぎる足袋と小さめの草履で足の指間が非常に痛い。
草履は薄いペラペラで石ころ道が脳天に響く。

何度かストリートのシーンを撮って室内シーンに移った。
テーブルに座るシーンでホッとする。
足指の痛みは草履の花緒で水ぶくれが出来たらしい。
とにかく痛い。

室内のシーンが終わりぼくらの出番は終った。
クラフトテーブルからブリトーを頂く。
ぼくはメキシカンフードはあまり食べない。
でもブリトーはとても美味しかった。
何時も食べていると言う若い男は、
「たこベルよりはうんと美味しい」
と喜ぶ。

撮影は午後7時半に終った。
着替えを済ませチェックアウトをすると、
メイクもそのままで家路についた。
何より先にシャーを浴びてすっきりしたい。

室内のシーン時だった。
S氏が入ってくると、
2週間後にこのシーンで働くエキストラに
コールバックが有ると言う。
もう一日仕事が出来る、良いニュースだ。
その時は馬鹿な間違いはしないよう頑張るぞ。

(完)

(ウエブ日記に撮影現場の詳細を書くことは出来ませんので、
元日記を検閲編集して載せています。ご了承ください。)

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by shinia62 | 2007-07-03 05:54 | はりうっど、ハリウッド | Comments(0)


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