2007年 06月 26日

その4

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ある夏の出来事

夏の陽射しに、山奥の一軒家は緑の草いきれでむせ返る程だ。
ぼくは1人で遊んでいた。
畑仕事で家族は出払い、一番上の姉が家事をしている。
兄弟姉妹が多いので、その姉との年齢差は13歳くらいだろうか。
ぼくが4、5才の頃だと記憶する。

「あまり遠くへ行っちゃ駄目だよ」
 姉の声を背後に聞きながら家の回りを走り回っていた。
裏手の畑沿いの小道を走る。その左側は低い雑草が茂る空き地だ。
黄色や薄いピンクの野花があちこちに咲く。
そこには踏みつけられた道が野原の中へ続いていた。
その道が何処へ続くのか興味が湧く。

暫く歩くと乾いたかさぶたのように土が盛り上がる場所へ出た。
そこを一気に駆け抜けようとダッシュする。
広い空き地を見ると走り出したく成る、其れが子供の習性。
左足を大きく踏み出した時、予想もしないことが起こった。
踏み出した足が、乾いた土の中にぶすぶすとめり込んだのだ。
慌てて抜き取ろうとするが、今度は右足も沈み始める。
乾いた土に見えたその内側は泥沼状態だった。
もがけばもがく程身体は沈んだ。

同じ頃、姉は台所にいた。
雑用に気を取られ、外で遊ぶサムの事は忘れていた。
仕事の手を休める事なく、台所の窓から外へ目をやる。
その時、泥まみれの子供の姿が視界を横切った。
慌てて外へ出る。そこにゾンビの様な姿でサムが立っていた。
汚れの間からひーひーと息がもれ、目は恐怖に見開かれていた。
垂れ下がった手の先から黄土色の滴が落ちている。

「ちょっと、あんたどうしたのさ」
姉はぽかんと口を開けたまま目の前のゾンビを見つめた。
状況を判断するまで時間が掛かった。
突然鼻を突く悪臭に我に返る。

「それでさあ、頭からバケツで何杯も水をかけてさあ」
その夜、帰ってきた家族を前に姉の武勇伝が始まった。
ぼくは茶の間の片隅で小さく成っていた。
夕暮れ迫る山奥の一軒家から笑い声が響く。

あの沼からどう這い上がったのか記憶に無い。
説明の出来ない不思議な力に助けられたのか。
運が悪けりゃ、
ぼくの人生はあのとき終っていたかも知れない。

肥溜めに浸かり最高の肥やしを与えられたぼくだが。
兄弟の中で一番背が低かったのは何とも皮肉だ。

(続く)
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by shinia62 | 2007-06-26 07:19 | Comments(2)
Commented by あんじゃら at 2007-06-27 22:33 x
運が悪きゃ人生終わっていた。。と想う機会ありますよね?!
何故助けられたのか解らないけど。。助けられたから一生懸命行きよう!とする姿勢に展開されたその後の人生。。。
華開きましたね。。。
最高の肥やしを与えていただいた方の内面はとても豊かに巨大に育っていると感じます。
外見で判断するな!
をサムさん自身が証明されているのですねェ~
昔のサムさんの面影に触れさせていただきました。。
あの頃は。。。風情ありましたね。。
スイカ一切れを頂くのも。。。楽しい一時でしたでしょ??
(スイカあったのかなぁ?)
Commented by shinia62 at 2007-06-28 00:21
あんじぇらさん、
深いですね。実は日記の最後に「肥やしは外見ではなくぼくの内面を成長させた」てな事を書いたのだけど、きざな感じだったので削除したのです。でもあんじぇらさんには伝わった。(笑)スイカ?有りましたよ、我が家で作ってた。生きの良いのを何時も食べてました。夏だけですが。


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